「ベストダイブをロンドンで」2大会連続出場、たった一人の飛び込み代表・中川真依-ロンドンで咲く なでしこたちの挑戦(後編)
『ベストダイブをロンドンで。足の裏で感じた いい雰囲気』
―大きな壁を乗り越えて、五輪予選会で代表権を獲得されました。心境の変化は?
中川 自分一人で競技をしているのではないし、分かっていたはずなのに改めて周りの人に支えてもらっていることを実感しました。私が辛いから、と諦めるのは、そういう方々への恩返しもしないという意味で、何だか失礼にも思えました。感謝しているということと、それを心から思うことには大きな違いがあった。予選会は、結果以上にそう思って懸命にやりました。辛かった分、1本の飛び込みが大切に思えた。
―ロンドン五輪でも使用する会場、水泳センターで行われたワールドカップで、ロンドンが現実のものになったんですね。
中川 会場のイメージを焼き付けるために、部屋にはA4位の大きさでロンドンの飛び込み台の写真が貼ってあります。ロンドンと同じ台の全景です。毎日、目をつむって、そこで飛んでいる自分をイメージするトレーニングを欠かしません。どこの大会でも台には特徴なく同じですが、板が違うんですね。床に貼ってあるタータンの素材の違いで。
―足の感覚ですか?
中川 そうです。足の裏の感触がどこも異なります。ロンドンはしっくりとくる感じがしました。直観ですけれど。
―いい材料ですね。初出場した北京五輪での課題や反省などはありますか。
中川 それこそ逆に、地に足がついていなかった感覚が残っています。初めてのオリンピックで周囲からの注目も一気に変わりましたしね。あのときは緊張して、本当に見ている人が下からでも分かるんじゃないかというほど震えていました。手も足も震えて、頭がまっ白になった中での競技でしたから、11位に納得できませんでしたね。だから、競技が終わって水から出た瞬間、ロンドンを目指す、と誓ったんです。
―その瞬間から長い時間を越えて、ロンドンでの抱負は?
中川 手足がガタガタ震えてしまった北京とは違い、今回は昨年の経験からも落ち着いて臨めると思います。この4年取り組んできた技も、オリンピックで使うように慣れるだけこなしてきました。4年前にはできなかった技を見てもらいたいし、成功させたい。
―ニーマルナナシー、207C。2年前の日本選手権で成功された「後ろ宙返り3回半抱え型」という技ですね。
中川 飛び込みだけではなくて、筋肉や身体の使い方の正確性を上げるためにトレーニングに取り組んできました。先ほどお話したイメージトレーニングもそうですし、不調に陥ったときの「負のスパイラル」とは反対に、「プラスの連鎖」を導けるよう、例えば食事にも気を使い、野菜を多く、大豆たんぱくや、玄米、五穀米といったミネラル分も多く補給してきました。
―過酷な競技に毎日取り組んでいるのに、爪や肌もきれい。
中川 美容には興味があるんですが、なかなか時間を取れません。例えば、体操で代表になられた田中理恵さん(日体大大学院)も、競技で忙しいと思うんですが、人を引きつける存在感にあふれていらっしゃいますよね。同じ代表選手としてとても注目していますし、勉強になります。
―入賞、メダルといった目標は定めますか。
中川 もちろん、北京のときにはできなかった技を成功させてメダルに近づきたいと思います。でも、一番の目標は1本1本をていねいに、苦しかったときを思い出してありがたみを感じて臨みたい。美しくて、見ている人を魅了できるダイブ。そういう「ベストダイブ」をオリンピックで決めることを目標にします。
※中川が出場する「高飛び込み」は、8月8、9日、水泳センターで行われる。
中川真依(なかがわ・まい)
1987年4月7日生まれ。石川県小松市出身。現在は金沢学院大大学院に在籍。子どものころから運動神経抜群で、最初はトランポリンを、小1から飛び込みを始める。中3の世界ジュニア選手権に出場するなどすぐに頭角を表した。04年の日本選手権で初優勝した後は日本NO.1の座をゆるぎないものに。08年ワールドカップ高飛び込み決勝では、6位に入賞し、初の五輪、北京の代表となった。決勝に進出して11位と健闘。今回は、飛び込み競技でただ1人の代表。身長156センチ。
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