スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年5月25日 (金)

サッカー日本代表最終予選トレーニング初日「スキとは自分で気が付かずに見せているもの」本田の危機感とプライド

 25日午後4時=埼玉県内 天候小雨、気温21度

 6月3日からのサッカーW杯アジア最終予選に向けて、6月12日の豪州戦(ブリスベーン)後の解散まで続く20日間もの合宿がスタートした。23日のアゼルバイジャン戦(2-0)後、国内の代表選手はいったんクラブに戻り26日のJリーグを戦う。この日は23日にはいなかったハーフナー・マイク、吉田麻也が加わった12人で約1時間半の練習を行った。

 24日の代表発表では、全日程での「非公開」も発表されたが、この日は人数も少なく、フィジカル重視とあってザッケローニ監督の了承で公開に変更。

 シーズンが終了した欧州組にとって、課題となるコンディションのばらつきを解消するためのメニューが連続して行われ、ミニゲームでは狭い中で1対1から5対5まで激しい動きで心拍数をあげたほか、1対1でもゴールを奪い合い、球際での攻守の厳しさを確認。試合から遠ざかっている海外組をフィジカル、メンタルでリカバーさせる意図がのぞく練習だった。

 23日の試合で、腰を打撲した森本貴幸は別メニューで調整したが、順調に回復している。(以下本田のコラム)

「スキというのは自分で気が付かないで見せるものだから」本田が漂わせる危機感とプライド

 

 過去最大の「派閥」を形成する海外組だけの練習には、高度な個々のテクニックやレベルの高いコンビネーションなどが随所に見られた。シュートの精度も明らかに高く、フィジカルがバラバラといってもスピードには日本代表のクオリティが感じられ、おそらく3日のオマーン戦までにはそれぞれがベストコンディションに持っていくのだろう。

 しかし、熾烈な戦いを続けなくてはいけない最終予選に向けて、「メンタル」の準備はどうなのか。つまらないシーンでそれを考えさせられた。

 

 最終予選に向けての初練習を終え、テレビの合同インタビューを受けたのはキャプテン・長谷部。インタビュー中、バスに引き上げる内田篤人がテレビカメラの真後ろに立って長谷部の様子を見ながらからかう。その後、吉田がそこに加わり、笑いをこらえていた長谷部はたまらず「最終予選に向けて」の話の途中で笑い出してしまった。それに気付いた周囲のテレビクルーたちが長谷部の目線の先を確認すると、そこで内田と吉田がふざけている。

吉田が促し、ミックスゾーンを通過する宮市まで、まるでゴリラのような顔真似をして長谷部を笑わせて行った。

 

 W杯最終予選で息の詰まるような修羅場、土壇場、正念場を何度も精神力でサバイバルしてきた日本代表、人生そのものの進退をかけて臨む監督たちをずっと見てきて歳を取ったせいか、こういう風景を「代表の」、しかも最終予選に向けた練習で見ることを楽しいとも、リラックスした和やかな雰囲気とも思わない。

 3次予選は確かに予定よりも2試合も早く突破した。しかし、アウェーで北朝鮮に敗れ、ホームでは97年の韓国戦以来の敗戦をウズベキスタンに喫した。W杯予選での連敗は、85年のメキシコW杯最終予選にまでさかのぼらなくてはならないほどだ。

「今は、まだ最終予選の10日前じゃないか、これから切り替わるんだよ」「何、お堅いこと言ってんの」という声もある。しかし、この代表の「メンタル」のある部分、「切り替え」、「緊張感の持続」といった部分が決してタフではないことは、結果が出た後の3次予選の連敗で十分反省すべき点だったはずだ。

 

 と、緊張感のない最終予選練習初日の選手の姿勢にひどくがっかりしていたら、本田圭佑がメディアに答えていた。

 「オマーン戦も楽に勝てるなんて思っていたら大間違いで・・・」本田の語気は強かった。

 「3次予選は、(自分にとって)結果的に公式戦と呼べるような(緊張感あふれる)ものではなかった。(最後の2連敗は)完全にメンタルが原因。誰も手を抜いているつもりはないし、そんな選手がいるはずないに決まっているのに連敗した。スキというのは、自分で分かっていないうちに(相手に)見せているものだから」

 前回、岡田監督指揮下の南アフリカ大会最終予選に、本田は2試合しか出場していない。中心選手の印象だが、彼こそ、初めて大黒柱として戦うこの最終予選に、危機感と、自らが決めるという誇りを持って挑もうとしていたようだ。エースとして、自分の役割を自分に課すため、今後は沈黙するのがいいのか、周囲との雰囲気作りをしていくのがいいのか、「パフォーマンスを考えていきたい」とも言った。

 臆病、恐怖といったネガティブな要素が、実際には大きなパワーになるのかもしれない。31日に、ACLを終えた国内組メンバー全員が合流したとき、近寄りがたい形相で、雰囲気でトレーニングが行われていることを。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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