スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年5月25日 (金)

駒澤李佳「なでしこに続いて花を咲かせるか、さくらジャパン 男女ホッケーロンドン五輪予選へ 4月25日から岐阜で開催」ロンドンで咲く-なでしこたちの挑戦(後編)

歴史的ゴールで始まったアテネ、結果を出せなかった北京、そしてロンドンは…

――初出場のアテネはまだ天理大の大学生ですね。しかも、日本の女子ホッケー五輪史上初の、歴史的なゴールを決められた。

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駒澤 あの時は、オリンピックに「出る」ことが目標でした。出場を決めても、何一つ失うものはありませんでしたから、フレッシュで勢いがありましたし、選手同士もガンガン自分をぶつけ合っていたような気がします。アルゼンチン戦で初ゴールを決めた時には、本当に力みもなく身体が自然に動いていましたし、チームとして初出場への手応えがありましたから、「ヨシ、北京ではメダルを狙うぞ」と強く思いました。当時はFWでしたが、後でビデオを見ると、相手との駆け引きも全くできていないし、何だかがむしゃらなプレーばかりで笑ってしまいますよね。自分で自分のプレーに「突っ込み」を入れたくなるほど。ただし、気持ちは充実していたのですね。北京ではオリンピックの怖さをより強く感じたのかもしれません。メダルを目指してあれほど準備したのに、結果には結びつかず、結局アテネよりも後退してしまった。

――どんな気持ちでした?

駒澤 日程がすべて終わってから閉会式まで1週間ほどあったので、チームメートが北京の観光やショッピング、ほかの競技を応援に行こうと誘ってくれました。でも、私はとうとう一度も外に出ることができなかった。選手村の部屋に籠もったまま、悔しくて、悔しくて、何が足りなかったんだろうと自問自答する毎日でした。暗い気持ちで帰国した後、応援してくださった方々に、もう1回頑張ってみたら?と励まされ、このままではダメだ、自分を変えよう、環境を変えた中で自分にチャレンジしよう、と決心したんです。2年前、お世話になったグラクソ・スミスクラインから移籍し(コカ・コーラレッドスパークス)、自分にもまだまだ伸びる要素があることも改めて知りましたし、経験を積むことで修正力が身についたと感じています。MFとして、周りを使えるようになってきたのも、北京後の収穫のひとつです。

――主将から副将になりましたね。

駒澤 キャプテン、という呼称が私にはどうも重すぎてしまって…私、真面目なんです。

――そういう女性に見えますよ。

駒澤 それで、うまく舵を取ろうとばかりしてしまって自分のプレーに集中できなくなることがありました。今は、キャプテン(山本由佳里=ソニーHC)をサポートしながら、広い視野でチームを見るようになっています。

走ってつなぐ、さくらジャパンをたくさんの方々に見て欲しい

――世界最終予選を観に来るファンもいるでしょう。ホッケーの魅力は?

駒澤 先ずスピード感です。次に、ほかのボールゲームと違って道具を使うのに、フィジカルコンタクトをするダイナミックな競技であるということ。

――確かに、サッカー、バレー、バスケ、ハンドボールも道具は使いませんね。ソフトボールは、コンタクトスポーツではありませんしね。

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駒澤 私は、中学時代はソフトボールをやっていました。人数が足りないので助っ人として、3カ月間の約束でホッケーを始めたのですが、道具を使い、スピードがあって、チーム競技だけれど個人の力も大きく作用し、一瞬の判断と決断でゲームが決まってしまう、そんな魅力に、みるみるのめり込んでしまいましたから。

――先ほども話が出ましたが、スティックが振り回されるようなゴール前に「素顔」で飛び込むなんて信じられません。

駒澤 恐怖感はありません。身体を張って逃げず、相手に、ボールに向かう。これは私だけではなく、さくらジャパンとしても意識していることです。ヨーロッパ勢、南米、韓国でも、みんなもの凄い腕力でフィジカルが強いので、そこで負けては勝負になりません。

――ノースリーブからのぞく腕の太さといったら、とても女子には思えないほどです。

駒澤 そうなんですよね。彼女たちは、環境も整っていますから、毎日、かなりの時間をウエイトトレーニングに割いて筋力を鍛えています。私たちはウエイトができない分、走ります。最終予選を目指した中でも、上り坂を走るきついトレーニングを取り入れるなど、とにかく走力アップをテーマにしてきました。また精度の高いパスとスピード感、ペナルティコーナーの正確性など、パワーのない分、外国勢に負けないホッケーを見せたいと思います。ホッケーにも少しでも注目していただければ、それに励まされますし、ぜひスタジアムで見てもらいたい。ロンドンに行く瞬間の歓喜をたくさんの方々と一緒に味わえればうれしいです。


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「ロンドンで、一緒に花を咲かせましょう!」=佐々木則夫・なでしこジャパン監督

安田監督は私にとって大先輩でもあり(明大卒)、ぜひ、一緒にロンドン五輪に出場したいと思います。私たちも昨年の五輪最終予選(中国・済南)で経験しましたが、予選は独特の雰囲気と厳しさがあり、ランキングや前評判といったものが通じない難しい戦いになります。ここまで頑張って来られた「さくらジャパン」が、予選を突破され、私たちと同じように、五輪3大会連続出場を果たされるよう、「なでしこ」一同、心よりお祈りしております。日本の女子団体スポーツに勢いをつけ、ロンドンでともに花を咲かせましょう!


駒澤 李佳(こまざわ・りか)

1982年6月7日、大阪府生まれ。
高校1年生からホッケーを始める。競技を始めたのは遅かったものの、すぐに頭角を現した天才肌。
天理大学4回生の時にアテネ五輪代表として初出場。五輪史上日本初のゴールを決める。現在、女子日本代表(さくらジャパン)の副キャプテン。2月には、観光庁の「スポーツ観光マイスター」に任命された。160センチ、53キロ。
アテネ五輪は8位、北京五輪は10位。

2012 ロンドン五輪男女予選大会

■女子 予選リーグスケジュール
・4月25日(水)vs オーストリア
・4月27日(金)vs マレーシア
・4月29日(日)vs チリ
・5月 1日(火)vs アゼルバイジャン
・5月 3日(木)vs ベラルーシ

■男子 予選リーグスケジュール
・4月26日(木)vs チェコ
・4月28日(土)vs オーストリア
・4月30日(月)vs ブラジル
・5月 2日(水)vs 南アフリカ
・5月 4日(金)vs 中国

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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