スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年1月 6日 (金)

阪口夢穂「なでしこジャパンの操縦かん・ボランチ阪口、ロンドンへのかじ取り」ロンドンで咲く-なでしこたちの挑戦(後編)

『1に睡眠、2に睡眠、3に筋トレ』

――昨年の阪口さん、実は、ひざの手術から本格的に復帰したばかりのカムバックイヤーでもありました。前十字じん帯損傷は、選手生命にかかわる大けがですが、そんなことを見ている人も感じないほどの鮮やかな復帰だったのでは?

阪口 アメリカに移籍したのに(09年)わずか2試合に出場しただけでひざをケガしましたから。でも、向こうの生活をとても気に入っていましたし、何だか帰りたくなくて、日本ではなく、特にゆかりもないアメリカで手術をしたんですね。ドクターに何を言われているかさっぱり分かり分かりませんでした。

――強いなあ。

阪口 そんなに深く考えていませんでした。チームメートが一人ついてくれて、手術が終わって、じゃあリハビリがんばって!とその日のうちに病院を出ましたね。帰国してからですね、不安というか、みんなに、どうして日本で手術を受けなかったのか、と指摘されて。

――若さだけではなくて、コンディショニングにもとても気を使っているそうですね。

阪口 ケガのお陰でしょう。以前は、練習後のダウンもしなければ、アイシングだってしていませんでした。野生児そのもの。でも手術後、新潟に移籍してからは、少しでも違和感があれば早めにアイシングをしますし、週の前半はきちんと筋トレをしながらコンディションを整えるようになりました。筋力のバランスが、ひざの手術の後、むしろ良くなった。以前は、ケガをする前ならこんなことができていたのに、と思うこともありましたが、今は、そういう比較はいっさいしません。

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――例えば、昨年のロンドン五輪予選などは、試合が一日置きでした。しかも気温もまだ高い時期でしたが、阪口さんのコンディショニングの鍵は?

阪口 とにかく寝ること。

――どのくらいですか?

阪口 必ず9時間は。

――わー、豪快に。

阪口 私の疲労回復は睡眠なんです。時間が来たら眠くなって、お休みなさい、って。

――でもW杯や予選など緊張した試合、また遅い時間に行われる試合もありますよね。試合前は案外眠れるという選手も、当日だけは神経が高ぶったままどうしても眠れないとよく言いますよね。

阪口 全く問題ありませんね。W杯は祝賀会などがありましたから、すぐに、というわけには行きませんでしたが、それでも、はい、お休みなさい、と時間が来たら寝られますね。

――それも強いなあ。

『もっともっと、女子サッカーが定着するために』

――何か新しいトレーニングなどチャレンジしたいことはありますか。

阪口 新潟の冬は雪が多く、屋外でのトレーニングができません。2月から合宿が始まるので、今年は、完全に休まずランニングなどは続け、プールでのトレーニングも取り入れてみようと思っています。どうすればできるのか分かりませんが、バレーも一度やってみたい。

――踊るほうじゃなくて、打つほうの? 新潟は屋内競技も盛んですから、ママさんバレーのチームにでも加入したらどうでしょう?

阪口 大好きなんです、バレーボールって。面白そうですし、判断力が早くないとダメでしょうから。チャンスがあるといいんですが。

――W杯優勝で大きな変化がありましたね。また大きな注目を浴びる一年になります。

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阪口 ちょっと買い物をする時でも、以前ならば考えられないほど大勢の方々に、「写真、いいですか?」「サインを下さい」と声をかけてもらいます。とりあえず、百均(100円ショップ)に行くのは辞めましたけれど。

――ほかの、なでしこ選手も、買い物かごを見られてしまうので何となく買いづらいって笑っていました。

阪口 大変なこともありますが、ブームで終わらせたくないですし、オリンピックのようにみなさんが注目する大きな舞台で結果を出すことで、もっともっとしっかりと、女子サッカーの人気が定着するといいな、と願っています。

――仕事とサッカーを両立させる環境はいかがですか。

阪口 W杯以前はパートでしたが、W杯後、契約社員にして頂きました。これは、私にとって一番大きな変化だったかもしれません。ロンドンでは、金メダルという目標はもちろんですが、何よりも、みなさんが応援して良かった、と感じるような、なでしこらしいサッカーをしたいと思います。

阪口 夢穂(さかぐち・みずほ)

1987年、大阪府生まれ。
Lリーグ1部だった高槻の下部組織で、高校生ながらトップチームに参戦、得点王争いに名を連ねて大きな注目を浴びた。高卒後に「TASAKI」に入団し北京五輪ベスト4に貢献。09年には米・インディアナに移籍したが左ひざ前十字じん帯を断裂し帰国する。10年に新潟に移籍し、昼は半導体部品のメーカー「ナミックス」に勤務する。165センチ、59キロ。ドイツW杯では全6試合に先発出場した。

ロンドン五輪女子サッカー アジア最終予選結果(中国・山東省済南)

9月1日 日本 3-0 タイ
9月3日 日本 2-1 韓国
9月5日 日本 1-0 オーストラリア
9月8日 日本 1-1 北朝鮮
9月11日 日本 1-0 中国

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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