スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年1月 6日 (金)

阪口夢穂「なでしこジャパンの操縦かん・ボランチ阪口、ロンドンへのかじ取り」ロンドンで咲く-なでしこたちの挑戦(前編)

夢穂を「みずほ」と読む。なでしこジャパンのボランチ(ポルトガル語で操縦かんの意味)、阪口夢穂(24=アルビレックス新潟レディース)は、攻撃の要・沢穂希(INAC神戸)を存分に活かし、堅い守りを束ね、さらに強豪との激しい駆け引きを求められるこのポジションの楽しさを、分かり始めたという。2012年は全日本選手権の決勝に初めて進出。代表の佐々木則夫監督が、今後10年にわたって、なでしこをけん引する選手と期待を寄せるMFは、なでしこの悲願、ロンドン五輪での金メダルに向けて、文字通り「操縦かん」をしっかりと握っている。

(取材・文:スポーツライター 増島みどり)

『ロンドンも、今のままでは、まだ足りない』

――もう何度も聞かれていると思いますが、ロンドンの目標、今の手応えなどお聞かせ下さい。

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阪口夢穂 年明け(2月)から早くも、3つの世代で大人数での合同合宿が始まります。下の世代には、本当にテクニックのあるうまい子たちがたくさんそろっていますし、W杯優勝やロンドン出場が決まったことで、若い選手たちのモチベーションが今まで以上に高くなっている。こうした、下からの押し上げに負けないようにしなければなりませんよね。W杯では全試合で先発出場をしましたが、今は、常にレギュラーで出られる保証なんてありません。正直、今のままでは、ロンドンの目標を口にするだけの場所には、まだ立っていないように思っています。

――厳しい自己評価ですね。

阪口 ロンドンへの出場は決めましたが、選手として行けるかはまだ分からないのですから、あまり威勢のいいことは言いたくないんです。ロンドンでメダルを獲ることを目標にやってきましたし、W杯優勝もゴールじゃなくてその途中の出来事なんだってみなが思っています。だから、W杯で優勝できた自分が当たり前のようにピッチに立っている、とはまだ想像できないんです。もう一度、厳しい競争に勝って、先ずロンドン五輪の代表に選ばれること。これが目標です。

――そうなると、ご自分のプレーの持ち味をさらに意識して磨いていくことになりますね。昔は、このポジションもなじめなかったそうですね。

阪口 代表では以前、大先輩がいたポジションでしたから。「経験も技術もない私がどうして先輩を差し置いて? ちっともうまくないのに」という思いをずっと抱いていました。試合に出るにも気が重くて、正直少しも楽しくなかったんですね。ですから、北京五輪のことって、あまり思い出せない。ドイツW杯に入ってからさえも、そんな気持ちはどこか心の片隅にありましたし、消極的なプレーに気持ちが表れていたんではないか、と。

『あっ、また見ちゃった! ボランチの奥深さ、サッカーの味わいを楽しめるように』

――あまりそうは見えませんでしたけれど、全体のプレーではパスの成功率が、決勝に近くなるほどに上がっていったのが印象的ですね。阪口さんのプレー自体が大きく変化したことと関係があるのかもしれません。

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阪口 とにかくミスが許されないポジションですから、ミスしたらいけない、ミスするくらいならGKやDFに下げちゃえ(バックパス)と、どこか萎縮して前への意識は薄かったんです。それが予選の最終戦でイングランドに敗れて、何だか吹っ切れたんでしょうね。それと、直接聞いたわけではないのですが、以前先輩が、「みずほだったら、ポジションを取られても納得できる」と、周囲の方々に話していた、と聞いたことも、このポジションへの意識を高めるきっかけになりました。ミスを怖がっていてプレーしても、チャレンジしても、リスクは同じ。だったら、思い切って自分の縦パス1本で攻撃が流れるように始まっていくその楽しさ、先の先を読んでそれを狙い通りに運ぶ難しさ、ボランチの仕事はとても奥が深く、W杯途中から、やっとその楽しさも分かってきたところで…。

――視野の広さが求められますね。

阪口 360度相手に囲まれるポジションなんですね。ですから、常に相手を見ているような気がします。試合中、アレ、さっきも確認したのに、また見てしまったぁ、と、ふと思うことがよくあるんですよ。

――チラ見を常に。

阪口 ええ、そんな習慣が身に付いちゃったみたいです。そういう視野の確保、そこからの展開力はこれからの競争でも自分の持ち味になると思うんで、「あっ、また見ちゃった」は忘れないでいこうかと。W杯でもトーナメントに入ってからは、前を向いてパスを出すこと、先を読んだパスを1本出すことで局面を動かすこと、こうした意識を持ってプレーできるようになり、これなんだな、自分に求められているもの、自分がやらなきゃいけないものは、と分かりました。

――阪口さんは、なでしこではボランチですが、アルビレックスでFWもやる。さらには、かつてGKをやったこともありますね。こういうキャリアはとてもユニークで、特別なものでは?

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阪口 GKをやったのは、浦和との全日本選手権ですね(06年)。PK戦になって3本を止めてしまって…。

――しまって、ということはないでしょう。

阪口 でも、なでしこの先輩で大好きな山郷さん(のぞみ、浦和のGKで代表のベテラン)に、笑いながら、「みずほ!こっちは何年キーパーをやっていると思ってるの?」と、叱られました。

――3つのポジションから見たサッカーは、どんな風に見えるんでしょう。子どもの頃にやっていた、というのではなく今も3つのポジションをこなしている選手はそうはいません。

阪口 ボランチでは、駆け引きですよね、楽しいのは。先を読んで、そこに自分が思ったようにプレーを展開していく面白さがあります。FWは、ただ点を取ったら最高、って気持ちが乗りますし、GKなら、止められたらうれしいので、これも相手との駆け引きですね。自分がFWだから分かることもあるし、自分がGKを経験したから分かることもある。サッカーの面白さとか味わいみたいなものを、ポジションそれぞれが教えてくれる感じですかね。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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