スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年11月10日 (木)

遠藤保仁 独占スペシャルインタビュー ―遠藤という視野から広がる、ブラジルへの景色― 後編

ピッチの外から見えた別の景色

― ここからは、遠藤選手個人の話を伺いたいと思います。10月、ここ何年か、なかった経験をされたんではありませんか。

遠藤 2試合(日本代表のベトナム戦、Jリーグ山形戦)それも代表とクラブで、ピッチに立たずにサッカーを見ましたからね。久しぶり、というか、代表とJで連続はあまりないでしょうね。

― 何か発見は?

遠藤 とてもたくさん。ピッチの中心から見ている視野や考え方とは、また違った新鮮な発見がありましたね。

― 遠藤選手ほどのキャリアを持っていても?

遠藤 もちろんですよ。何より強く感じたのは、何て怖いんだろう、と。

― 怖い?ですか。サッカーが?

遠藤 サッカーともいえるし、自分のプレーともいえる。うまくいかない試合の場合、ああすればいいのに、こうやればうまく行ったのにといった、第三者的な目線じゃなくて、自分がこのピッチに立っていたら、と、置き換えて考えるタイプなんですね。そうやって見ると、今までよくあんなプレーの質でやっていたな、とか、よくもこんなサッカーで勝ったな、とか、今までやっていたサッカーのレベルが実はまだまだだったじゃないか、とそれを見せられてぞっとしてしまうんです。だから怖くなる。

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― 簡単な話ではありませんね。勝ったからある程度満足した、とか、うまく行ったと思っていたのに、冷静に外から見ると…。そういうことですか?

遠藤 そうですね。違った視野で試合を見つめ直すと、これじゃまだまだダメだな、と思う箇所が多くて、それに驚き、そんなレベルにいるんだ、と、何だか怖くなるという感覚でしょうね。とてもいい機会でした。

― サッカーに恐ろしくなったことがリフレッシュになる、とは、やはり遠藤選手の視野は特別に思います。年齢、キャリアを積んでいく過程で、一人のフットボーラ―として追求し続けるものは、よりはっきりするものでしょうか。

遠藤 やはり質でしょうね。これは見た目で判断できるものではなくて、自分だけが分かる部分でもある。例えばパスを1本通す。成功してゴールや大きなチャンスが生まれる。若いときならそれで達成できる満足感もあったんでしょうが、今は、そこに、クオリティが加わる。パスなら、あと数センチ早ければ、とか、あとボール1回転させれば、といった考えが浮かんできますね。

― やはりパスに厳しい。

遠藤 パススピードに関して以前以上に強くこだわっている。リスクもある中で、最高の質を求める感覚が、W杯を終えて以前よりも強くなっているかもしれません。夢の大舞台に立って感じたものは、どんどん磨いていかないといけないと思う。FKも同じ。決まったことへの充実感より、うーん、もう少し何とか蹴れたんではないか、と考えている。

― 今でも忘れられないのは、南アでパラグアイ戦が終わった直後に話を聞いた際、遠藤選手はすでに、「ブラジルが待ち遠しい」と言っていたことです。PKに敗れ、涙を流し、悔しさをかみ締めている選手たちの中で、あのコメントには驚きました。しかも若い選手ならいざ知らず、30歳がエッ?ブラジルって、ちょっと気が早いんじゃ、って。

遠藤 言いましたねぇ。面白い時間があったからだと思いますよ。

― 面白い時間?

遠藤 ドーピング。最初、なんでこんな時に順番が回ってきたんだよ、面倒くさいな、と思ってました。疲れたし、早く帰りたいし、全くついてないな、くらいに。ところが、ドーピング検査の部屋に入ったら、とても静かで誰も話しかけて来ない。むしろ、落ち着いてゆっくり、南アでのこと、これからのことを考える時間ができたんです。もしいつものように取材を受けて、みんなと同じテンションで移動していたら、ブラジルが待ち遠しいなんて言ったか分かりませんね。負けたけれど、静かな部屋で一人振り返りながら、W杯ってなんていい場所なんだ、やっぱりもう一度来るぞ、と、ドーピング室で力が湧いてくるような感覚を覚えました。

Aマッチ出場歴代3位、ここまで来たらどこまでできるか自分にチャレンジする

― 先のことは分からないとか、もし出られたら、というコメントは聞きますが、「待ち遠しい」ですからね。もっともっと高いところに行きたいんだな、と驚きましたね。

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遠藤 さきほども話しましたけれど、若い時には、W杯に出られたらいいな、と思い、少し経つと出たい、に変わって、今は、出なくてはいけない、行ってどうするか、のレベルまでやってこられたんだと思う。

― 出られたら、出たい、出なきゃ、で、さらに待ち遠しい、までたどりついた、そんな感じがしますね。メンタル面での変化は何かありましたか。

遠藤 W杯からここまで、どういう状況でも決して動じない、バタつかないようになってきているかもしれない。

― 今までだって、バタついているのを目撃したことはないけれど。

遠藤 あえて、鈍感になっていることもある。ピッチを細かく見て、プレーの小さいところにもこだわる。でも、あえて鈍感にプレーをする。感じても、発見しても、それに対応しようしようとすれば、かえって悪い方向に行く場合もある。だから繊細に鈍感に、そんな感覚を身に着けてきたように思う。自分にしかできないプレーへの自信やこだわりも強く持っています。

― 繊細で、鈍感・・奥が深いですね。W杯のような舞台を経て、例えば自分に足りないものを意識するのか、それとも自分だけのプレーにもっとこだわるようになるのか、どちらでしょう。

遠藤 他人の土俵には絶対に上がらない、と考えてプレーを判断する。自分の土俵に相手を引きこんで試合をする。それが自分のスタイルですし、ドリブル、ヘディング以外なら絶対に負けない。一瞬で何パターンものプレーを選択できるような読みで、相手を圧倒したいですね。

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― 見ているほうも、待ち遠しい。代表Aマッチも歴代3位になられた(2011年11月時点)。

遠藤 日の丸をつけたユニホームを着続けることの重み、喜びはどんどん大きくなるもんですね。代表に入るんじゃなくて、代表になりたい、といつも思ってきました。先には井原さん(正巳、柏コーチ=122試合)、今までは佑二(中沢、横浜M=110)という(フィールドプレーヤーの)とても大きな目標があって(GK川口能活が116試合で2位)、100試合を越えてからは(昨年10月日韓戦=ソウル)、どこまでできるか、こうなったらできる限り代表で試合に出たいと、強く意識するようになった。ピッチに立って、苦しいとき、本当に厳しいときに力を発揮する。それが代表だと思っています。

― 予選の道のりで達成されますね。

遠藤 こんなチャンスをもらったのだから、Aマッチに誰より出て、自分を磨きたい。黄金世代と言われた世代で、もうあとひとつ、サッカー選手として成長できるか、自分が引っ張って、是非皆んなで挑戦してみたいですね。このアウェー2連戦の結果は重要ですが、一方で、ここはただ通過点でしかありません。目の前の試合で結果を出して、さらに先の、もっと高いところを常に見ている。そういう視野で、ブラジルまで戦っていきたいと考えています。

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遠藤 保仁(えんどう・やすひと)

1980年1月28日生まれ。鹿児島県出身。ガンバ大阪所属。
1998年に鹿児島実業高を卒業し、横浜フリューゲルスに入団。同年3月21日に行われた横浜M(現横浜Fマリノス)戦で、Jリーグ初出場。1999年より京都パープルサンガ(現京都サンガ)に、2001年よりガンバ大阪へと移籍し、現在に至る。
また、U-16以降、各年代で日本代表に選出され、今では唯一無二の存在として、活躍する。
個人タイトルも、2003年のJリーグ優秀選手賞、Jリーグベストイレブンをはじめ、2008年にはAFCチャンピオンズリーグMVP、日本年間最優秀選手賞を受賞、2009年にはアジア年間最優秀選手賞に輝くなど、その活躍は留まることを知らない。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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