スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年9月 1日 (木)

日本代表監督アルベルト・ザッケローニ スペシャルインタビュー「ブラジルW杯2014にむけて」 後編

お互い手さぐりだったアジア杯(1月/カタールで。優勝)で掴んだもの

― 監督就任から1年経ちます。長かったか短かったかの感想と、チーム作りはご自分の中で想定したものと比べてどうでしょうか。

ザック監督 去年の8月30日に飛行機から降りたときには、ちょっとどうなることかと思いましたよ、あまりの蒸し暑さに。そして、(夏休みだったこともあり)まるで東京に自分しかいなくて、日本人全員が夏休みに出かけていたような気持ちになりました。空港からホテルまで移動する間、車を全く見なかったものですから、大丈夫かなぁと不安でしたが…冗談はともかく、チーム作りでもっとも大きいのは自信。チームに対する自信を選手が深めてくれたところは大きいでしょう。結果がついてくることもあるかもしれない。現時点で代表は非常にいいグループが出来上がり、自分たちの方向性、具体的にどうすれば行けるのか、といったイメージはできているように感じているし、イメージ、考えを共有することでさらによくなっている。

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― 具体的には?

ザック監督 11人で攻めて11人で守る自然な流れに入ることができている。11人で守る、11人で攻める意識の共有ができることで、距離感がいいものになるし、サポートが出てくるのでは、と思う。だからといって、自分たちがすばらしいチームになったということではないし、現時点のものをあくまでベースと考えて、その上でプラスアルファの能力を加えていけるかだろう。

― ベース作りが非常にスムーズだった印象があるが。

ザック監督 当然、できるだけ早くベースを構築したいと願ってはいても、それは難しいものだ。ひとつのターニングポイントは、アジア杯の最初の数試合ではなかったかな、と振り返ると感じるものがある。

― そう感じられる試合、シーンなどはありましたか。

ザック監督 特にこれだ、といったエピソードはないけれども、あのときのチームは、代表チームに慣れているベテランもいれば、代表に初めて入った選手もいたわけで、平均年齢が25歳にも満たない若いチーム構成になったばかりだった。

しかも監督が代わったばかりで、選手は監督のやり方がまだ分からないため、初戦に出られなかったら、もう2戦目、3戦目のチャンスはないと考えがちだ。アジア杯前半の苦しい流れの中で、代表の新しい監督はそういったタイプではなく、ピッチ、練習で成長している姿を見せたり、試合に出るに値するプレーをしたりとか、チームの中で必要な選手だと思わせれば必ず使ってくれる、名前(実績)ではなく、今の状態で使っていく監督なんだと理解されたことが収穫だったのではないか、と選手を見ていて感じることができた。年齢に関係なく、誰にも可能性があると分かってくれたことが、とても良かったんじゃないかな。

― 宇佐美(貴史、バイエルン)を選ばれたり、日韓戦では清武弘嗣(C大阪)を呼ばれた。世代交代を進めていることは、若い選手たちにも刺激になるでしょう。

ザック監督 逆にベテラン、ある程度年齢を重ねた選手に関しても、例えば駒野(友一、磐田)選手にしても、昨年の怪我で代表を離れていたが、戻ってきてすぐにスタメンで出場している。何回も言ってきたが、私と、私のテクニカルスタッフでJの試合はすべて把握をしているし、その中でチョイス(選抜)のミスはあるかもしれないが、極力、それは避けたいということで慎重にメンバー選びを行ってきたつもりだ。

日本代表の理想の選手、理想のサッカー

― 以前、Jリーグに満足はしているけれども足りないものがあって、それを自分の経験から足して、代表を強くしたいとおっしゃっていた。今、いかがでしょうか。

ザック監督 少しずつ改善されてはいる。例えばアジア杯前の日本代表は、横パスが多かったイメージがあるが、今は、前へ、攻撃を強く意識したショートパスが増えているし、チームの重心も、もうちょっと低く設定していた(ラインが下がっていた)と思う。例えばチェコ戦(6月の親善試合、0-0)でも、動きはいいのに、最後のスピードと精度が足りない。そういった意味で、(8月の)韓国戦(3-0)はスピードがあり、それがいいプレーにつながった。

― ディフェンスのポジショニングは、毎回の合宿でも厳しく管理されていますか。

ザック監督 もう少しディフェンスラインを上げるようにはしてきたし、以前から比べるとよくなっている。日本は、フォワードの選手が守備に参加してくれることがとても大きい。相手のゴール近くでボールを奪える機会も増えてきているはずだ。

― 色々なポジションで多くの選手を試していますが、特に最近、ボランチのポジションを試されている印象です。ボランチに求める資質は?

ザック監督 まず、(ボランチという言い方をイタリアではしていないので)セントラル・ミッドフィルダーの資質として、攻守ともに優れたプレイヤーが好きだ。守備だけとか、攻撃だけに偏るのではなく、守備の仕方にしても、守備のみをしているのではなく、あくまで攻撃の一歩だと考え、攻撃のときにはあくまでも守備の始まりだと考え、動ける選手、そういう意識を常に持っている選手が私は好き。積極的にボールをもらいに行って、自分でイニシアチブを持とうとする選手は、中でも好きなタイプだ。

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― チーム最年長の遠藤選手(保仁、G大阪)の代わりは見つかりそうですか?

ザック監督 遠藤だけではなくて、すべてのポジションに入ってくる可能性のある選手がいる。遠藤選手と同じ特徴ではないかもしれないが、ほかの特徴がある選手はいるし、セントラル・ミッドフィルダーのポジションには、Jリーグでも特に経験のある選手を置いている傾向が強いと思う。難しいポジションのひとつだからだろう。

― つけ加えていくべきほかのクオリティが必要だと話されているが、具体的には?

ザック監督 対戦相手にさらに順応できる点であったり、一方では、クラブチームでなくて代表チームである以上、他国の文化、サッカー文化を持っている国とやる場合のために、順応さとはまた違った自分たちだけの持ち味、確固たるサッカーを持たねばならないでしょう。やはり、日本としては、90分間切れないでプレーをし続けられることが大切だと思っている。試合中も、システムを柔軟に変えて対応できることや、相手に的を絞らせない、読ませないというサッカーも習得していかなければいけないでしょう。日本のベースとなっている技術は、非常に高いレベルにあるのは間違いない。しかし、その技術をピッチの上で、技術プラス、スピードとしてうまく融合させたサッカーをピッチで表現したい。

― 代表監督を経験され、クラブと比較しどの部分が楽しいでしょうか。

ザック監督 非常に大きな責任が伴ってくるので、時間の許すかぎり、試合を観たい。そういう選手の選び方をしなければ、もう少し自分の時間は多くなるのかもしれないけれども。この仕事の楽しいところは、国民全員が私たちのチームを応援してくれるところ。当然クラブチームではそういうことはありませんから。そして、様々なサッカー文化が異なる国と試合ができるのは、とても楽しい経験でしょう。

― 今まで印象に残るJリーグの試合、選手はいますか。

ザック監督 特にこの試合と特定したものはないが、選手が新しい一面を見せてくれた試合というのは、記憶に残るものですね。例えば、若い選手で、いいなぁと思うプレイヤーが出てきて、それ以来、今も引き続きモニターしていますが、とても楽しみで自分自身刺激になっている。どの試合だったのか聞きたい?それは秘密ですよ。

※通訳:矢野大輔氏(日本代表スタッフ)

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アルベルト・ザッケローニ(Alberto Zaccheroni)

1953年4月1日生まれ。イタリア・ロマーニャ州メルドラ出身。
地元メルドラでサッカー選手をしていたが、20歳を前に怪我により選手を引退。以降、家業を営む傍らでコーチ業を続け、1983年に30歳で当時セリエC2のチェゼナティコの監督に就任。
その後、指導者として経験を積み、ウディネーゼ、ACミラン、インテル、ユヴェントスFCなどセリエAの有力クラブの監督を務める。ACミラン監督時代には、就任初年度の1998-1999シーズンにセリエAでリーグ優勝しスクデットを獲得。同年のイタリアサッカー選手協会年間最優秀監督賞を受賞した。

ブラジルW杯2014 アジア3次予選 北朝鮮戦・ウズベキスタン戦
日本代表メンバー

GK
川島永嗣(リールス=ベルギー)
西川周作(サンフレッチェ広島)
権田修一(FC東京)

DF
駒野友一(ジュビロ磐田)
今野泰幸(FC東京)
栗原勇蔵(横浜F・マリノス)
伊野波雅彦(ハイドゥク・スプリト=クロアチア)
槙野智章(ケルン=ドイツ)
内田篤人(シャルケ04=ドイツ)
吉田麻也(VVV=オランダ)

MF
遠藤保仁(ガンバ大阪)
阿部勇樹(レスター=イングランド)
長谷部誠(ボルフスブルク=ドイツ)
細貝萌(アウクスブルク=ドイツ)
柏木陽介(浦和レッズ)

FW
李忠成(サンフレッチェ広島)
岡崎慎司(シュツットガルト=ドイツ)
香川真司(ドルトムント=ドイツ)
清武弘嗣(セレッソ大阪)
原口元気(浦和レッズ)
田中順也(柏レイソル) ※1
ハーフナー・マイク(ヴァンフォーレ甲府) ※2

※1 森本貴幸(ノバラ=イタリア)が、怪我のため不参加。代わりに、田中順也(柏レイソル)を追加招集。(8/29)

※ 本田圭佑(CSKAモスクワ=ロシア)、中村憲剛(川崎フロンターレ)が、怪我のため離脱。代わりの招集メンバーは未定。(8/31)

※2 ハーフナー・マイク(ヴァンフォーレ甲府)を追加招集。(9/1)

※ 以上、2011年9月1日時点

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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