スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年9月 1日 (木)

「修羅場、土壇場、正念場、全てが詰まった戦い」W杯アジア予選突破への一歩

 05年2月、小笠原満男の先制点で「プラン通り楽に」試合を運べるはずだった日本代表は、ロスタイムになってももがいていた。ロスタイム表示は3分。相手シュートのこぼれ球を拾ったDFの中沢佑二から冷静に、正確に8人がボールをつないで23秒で奪った「さよならゴール」で辛くも北朝鮮を振り切った試合は、「W杯アジア予選」の苦しさを象徴するものだ。

 あの試合後、遠藤は「土壇場だけど、3分あれば十分だと思った」と落ち着いて話し、23秒間、サイドチェンジを思い切ったサイドの加地亮も「必ず何かが起きる、と信じて戦った」と振り返っていた。

 3次であろうが最終だろうが、アジア予選とは、アジアチャンピオンである日本代表が、「上手い」とされるサッカーのクオリティとはまた次元の違った、「強い」試合を求められる。

 6年前の北朝鮮戦を、まだ学生としてスタンドで観戦した鄭大世は1日、「あの試合は、自分の夢の分岐点だった。あの試合を見て、北朝鮮の代表として勝ちたいと思った。あすその憧れの舞台に立てる」と、強い気持ちを表した。アウェーの戦い方に徹すれば、勝たねばならないプレッシャーもない、と大きく構える。仙台の梁勇基は「待ち遠しい」と表現し、「(本田、中村が抜けても)代わりの選手がチャンスを掴もうとがんばるに違いない。日本代表は簡単な相手ではない」と、豊富な経験を持った2人の離脱に、むしろ警戒感を募らせる。「悔しかった6年前の試合、あの時は大黒様、と(メディアが)呼んだので、今回は、チョンテセ様と呼ばれるように」と冗談めかしながら、試合を決定づけるゴール奪取に自信をのぞかせる。

 北朝鮮では、6年前もピッチに立っている柏の安英学が32歳でチーム最年長。「日本との試合は、本当に特別な試合です」と落ち着いた様子で日本のメディアに対応した。日本は、やはり6年前のあの修羅場をくぐった遠藤が31歳で最年長。中盤は、2人の「経験者」による、静かなる頭脳戦と激しい当たりの、壮絶な戦いになるだろう。足掛け2年もの時間をかけて、修羅場、土壇場、正念場全てを乗り越えた国だけに、ブラジル行きの切符が渡される。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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