スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年7月30日 (土)

「なでしこ物語」は夢の途中-佐々木則夫監督、ロンドン五輪一年前に、帰国後初の単独インタビュー(前編)

女子W杯ドイツ大会で、強豪を次々と破って頂点に立った「なでしこジャパン」の選手たちは、初優勝の感激に浸ることなく、更なる目標、ロンドン五輪での金メダル獲得へと新たな一歩を踏み出している。08年北京五輪(ベスト4)でメダルを手にできずに終わった悔しさを晴らすため、一丸となった3年間、そしてこれからの「なでしこ」について、佐々木則夫監督(53)が明かした。

2011年7月26日、日本サッカー協会で取材
(取材・文:スポーツライター 増島みどり)

世界大会初優勝でも満足しない理由

――W杯優勝(※1・※2)の話を伺いたい一方、ちょうどロンドン五輪一年前でもあります。今回、世界大会での初メダルは必ず手にされるとは思っていましたが、金とは思わず、『さあ、ロンドン五輪で悲願の金メダル!』という企画インタビューを、優勝とは関係なくお願いしていました。ソフトボールや野球が実施されない五輪で、団体競技の五輪金メダル筆頭候補としてなでしこを扱うつもりでした。

佐々木監督 優勝で、そのロジックが崩れたんですね。

――はい、うれしいことに。偉業達成直後なのに申し訳ないんですが『さあ、もう一回金メダルだ!』が今回のテーマになります。ロンドン五輪開幕一年前となりました。

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監督 僕たちは、北京五輪(4強)が終わってから、ロンドン五輪までの流れを大きな区切りとして出発しています。今年は、W杯とロンドン五輪の最終予選が一くくり、いわば同じ章立ての中に入っているんだということを全員で強く意識してやってきました。W杯はロンドンまでの途中にある大舞台で、日本ではあまり認知されてはいないけれども、これも来年に向けて女子サッカーを広く知ってもらう上でも重要だ、と話していたんです。とはいえ過去の扱いから見ても、それほど大きく取り上げられることはないだろうと思っていたのに、今回は、テレビで女子W杯を全試合中継してくれることになった。同じ時期に(7月上旬から)、日本代表が南米選手権(コパ・アメリカ、アルゼンチン開催)に出場しているはずが、これもキャンセルになりましたね。

――もし男子がコパに出ていたら。

監督 ザッケローニ監督が良いサッカーをし、もし男子が決勝トーナメントに勝ち進んでいたら、女子はやっぱり男子の3分の1とか、4分の1の扱いだったんじゃないでしょうか。オリンピックのようにたくさんの競技と一緒ではなく、予選からの長いスパンで女子サッカーだけに注目してもらえる初めての状況が発生し、絶好のアピールの機会が急に降って沸いてきたような感じでした。私たちにとってありがたい話でしたね。

――優勝から明けてドイツを出国するときには、選手たちはもう、9月からのアジア最終予選に向けて気持ちを引き締めたい、と話していました。これだけの結果に、浮き足だったところがなかったことに驚かされます。

監督 結果はこうなりましたけど、私たちは9月のアジア予選までをセットにしてきたので、そこは崩さないでやる。W杯で優勝したけれど、僕たちが、4年がかりで書き上げる物語の一章はまだ終わっていないし、途中でしかない。優勝してしまってこれだけの注目を浴びると、逆に、崩れやすくもなる。選手たちには「お前たち、分かっているだろうな…」と、どこかで気持ちを引き締めるよう言わなきゃいけないかな、と思っていたのですが、全く逆だった。みんながインタビューに応じている姿を見て、改めて、彼女たちはしっかりしているなぁ、と僕が感心させられてしまった。

――ちゃんとわかっているなと。

監督 下手したら僕より、分かっています。もう1回、どこかで気を引き締めて行こう、と言う必要がありません。気持ちを切り替えて、などと僕は一切言っていないが、選手が言い合っている。そういう選手たちであることが、優勝と同じく、私の手応えで充実感です。

――目標意識の高さですね。

監督 彼女たちは本当に苦労してきましたからね。この優勝で終わらせてはいけないとか、今まで、つらい思いをした先輩からつないできた歴史や財産、勢いをこれで消したら絶対にいけないとか、競技者として勝つことへの意欲とはまた違う、強い使命感をも持っているような気がしますね。女性のすばらしいところでもある。それとも、「ノリさんをクビにしちゃいけない」と思っているんだろうか。

――そういうネガティブな話では、動かないのではないでしょうか。目標といえば、ベスト4を目指したらベスト4で満足する、だから常に優勝を目指すチームでなければならない、と北京の後、監督はメディアを前にも公言された。

監督 北京後、代表、その下、ユース年代と3つのカテゴリーで初の合同合宿をした際、60~70人を呼びました。4強に入りながら、結局はメダルを手にできなかった唯一の国に終わってしまった。その悔しさを全員で共有し、目標を新たに据えようと、まず、沢(穂希、キャプテン)に相談をしました。沢は、「本気で狙う」と言ってくれたので、その上で全員に「優勝を目指そう、金メダルを取ろう」と伝えた。あの合宿で、女子サッカー界全員で決めたことに責任を感じてもらわないといけませんし、あの合宿があったから、この優勝の後でも、ロンドンまでと全員で決めたじゃないの、ここで気を緩めてどうするの、と、思ってくれたんでしょうね。ここ1年ぐらいは継続して全員がコミュニケーションをはかりながら、あぁだ、こうだと話し合い、映像を使いながらミーティングを繰り返し、私との関係だけではなく、年代の縦関係、横の関係、ピッチ上での縦、横のポジションでも、あらゆる方向で目標意識を高めプラスアルファを生んでくれました。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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