「南アW杯から引き継がれたもの」プレッシャーをはねのけたチームワークを生んだもの
新潟で行われたオーストラリアとの親善試合(1日)、日本は開始3分で失点を喫した。試合は永井の同点、逆転ゴールで勝利で終わったが、アジア予選ではご法度の失点が、苦い薬となって、この日は効き目を表したようだ。関塚監督も「横パスを止めて前に、とか、選手が前向きな話を自分たちでしたんじゃないか。最初の15分を、しっかり乗り切ったことは大きかった」と、オーストラリア戦の二の舞をしなかった、2週間での「成長」に手ごたえを見せた。
中東遠征での3-0の結果で、クウェートの姿が実像よりもみるみる大きく伝えられる中、この試合で際立ったのは選手たちの冷静さ、落ち着きだろう。
アジア大会で優勝は果したが、大会派遣は、オリンピックイベント(アジア大会は、JOC=日本オリンピック委員会の管轄)のカテゴリー。サッカーでの公式戦はこれが初という緊張感と、2月の遠征では負けている相手との一発勝負というプレッシャーがかかる特別な試合でもあった。キャプテンの山村和也(流経大)は、選手だけで行った試合2日前のミーティングについて明かす。得点源とされるFW永井謙佑(名古屋)が、左足首をねんざし「予選突破にピンチ!」とメディアが危機感を募らせた練習後の夜である。
「10分から15分の短いものでしたが、前日練習(18日の公式練習)は大事になるから、しっかりやろう、と、永井も含めて選手全員で話し合いました。(永井欠場は)誰も不安に思っていなかった」
このミーティングが、関塚監督も指摘した「前向きな話」のひとつだった。メディアや周囲の評価が、一発勝負は怖い、クウェートは強い、アウェーゴールは不利なルールと盛り上がる中で、地に足をつけて、選手間のミーティングを行ったことは、昨年の南ア大会での代表選手たちの「セルフマネージメント」にも似ている。
状況は違うが、周囲の不安が増大して行く中で、チーム内には選手の話し合いをきっかけに強い結束が生まれていた。そういえば、山村は昨年の南ア大会に、岡田武史監督が現地に連れていった「サポートメンバー」でもある。年齢的にもFC東京でのキャリアでも、GKの権田のリーダーシップも大きいが、厳しい予選でチームを支えるキャプテンが、昨年のチームに1ケ月間に渡って参加し、中澤や長谷部のキャプテンシーや、チームが団結するプロセスを見ていたことの意味、遺産にも似たものは、プレッシャーのかかったこの日の初戦で十分に示されたようだ。選手ミーティングのタイミングは絶妙だ。
精度の高い、スカウティングビデオも有効に働いた。選手は、試合が始まって、ほぼイメージ通り、長所も欠点も指摘されたものだった、と安心感を抱いて、魔の15分を乗り切ることができたという。1点を奪われたが、3―1の勝利で次戦での戦術にはある程度のゆとりも生まれた。
この日も出場はできたという永井を温存。中盤の支配をベースに64%のポゼッションで圧倒し、清武のゴールと浜田へのアシスト、大迫のゴールと形ができた。
次戦は23日、クウェートで行われ、暑さとの戦いにもなる。「暑いと思うが、体のケアをしてアウェーでいいパフォーマンスをしたい」と山村は話す。試合を観戦したザッケローニ監督も主役を立て「こういう試合は内容よりも結果だ。良い結果だったと監督に伝えて欲しい」とすぐにスタジアムを後にし、関塚監督へ伝言を託した。
〇・・・ザッケローニ監督は23日のクウェートでのアウェーを観戦した後、イタリアへ一時帰国し休暇を取ることになった。原技術委員長が明らかにした。