スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年6月22日 (水)

柳沢敦インタビュー「ベガルタのため、仙台のため、宮城のために何ができるか」(前編)

震災後のリスタートから、快進撃を続けるベガルタ仙台に、頼もしきキャプテン、柳沢敦が帰ってきた。震災後、左ひざの手術、長いリハビリと、移籍初年にもかかわらず3ケ月もピッチに立てなかった困難を乗り越えた今、34歳のベテランはチームに、クラブに、被災した人々、町にどう貢献しようとしているのだろう。沈黙を破って、思いを口にした。

(取材・文:スポーツライター 増島みどり)

仙台の強さは、実力。今大切なのは自信

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―離脱している間、チームはすばらしい結果でリーグの首位戦線を走り続けてきましたね。仙台の強さはどう見ていましたか?

柳沢 もちろん復興のために、被災された皆さんのために、という強い思いが団結心をもたらし、今まで以上に結束したという点はあります。先ずしっかりした守備から入ること、強い団結心、最後まで走り切ろうとするひたむきさ、これが今の仙台を支えていると思う。ただし、そもそも力のないチームであれば、これほど長い期間にわたっていいサッカーをするのは不可能です。

―もはや復興で快進撃、といった話だけでは説明できない強さではありませんか。

柳沢 そうです。もともと力のないチームであれば、こんな結果が出せるはずがありませんから。自分が試合に出られるとすれば、得点に絡む仕事をするのは当然ですが、今までにプラスアルファした自信、試合を運んでいく上での流れを読んだり、チーム全体に落ち着きを持たせたり、そういう仕事もしていきたいと思っています。今、もし自分がこの交代で入ったら、今、もしもピッチにいたらどうするべきだろう、そんなことをいつもイメージしながらリハビリしていましたね。

―鹿島アントラーズというチャンピオンチームで得た経験は、ここで生かされると?

柳沢 鹿島のように個々のタレントの力で試合をものにしてしまうようなチームではありませんが、仙台には鹿島とは違った集団の強さ、ひたむきさがある。最後まで優勝争いに絡んでいく力がある。

―5回もの優勝経験で得た一番のものは何でしょうか。

柳沢 勝てるチームというのは実は、勝てないときをどう乗り切っていくかを知っているチームじゃないかと思いますね。鹿島だって、いいときも悪いときも、ケガ人が出ることもあった。大切なのは、どんなときでも揺らがない部分をしっかり持って共有できるか。それと、チームとしての高い集中力。でも今は、そんなことを言う前に、自分がみんなの足を引っ張らないようにしないといけませんよね。

―ところで、今回の手術は…。

柳沢 両足の中足骨(ちゅうそっこつ)を折っていますよね、それと左ひざで、これが4回目の手術。

―4回の手術となると、大変な決断でしたね。年齢のこともあるでしょうから。

柳沢 ええ、体のこともそうですが、震災でクラブも町も大変なときですから余計に、ひざに抱えていた痛みを我慢しよう、できる限りチームを離れないようにしたいと強く思うと、気持ちの上でなかなか踏ん切りがつきませんでした。でも、痛みを、だましだましやるにも限界があるし、再開したとき、チームの力にはなれず余計に迷惑をかけてしまう、と監督に話をしました。監督は、僕の決断を尊重してくれたので、そのとき、これが復帰のための一番早い、ベストのタイミングだった、と気持ちを切り替えたんです。

―今までのどんなリハビリ期間とも違っていたのではありませんか。体を回復させるリハビリはある程度予測できますが、心のほうは?

柳沢 とても難しかった。というより、今もまだ答えが出ていない。これだけの被害を受けた中で、何ができるのか、それを自分に問い続けた時間でした。サッカー選手としてリハビリをし、復帰したチームにどう貢献するかを考えることは今までもしてきましたが、今回はそれで終わる話ではなかった。復興にかかわるボランティアを、人としてどうすべきか、どうすれば地域に貢献できるかを考えることには終わりがないような気がします。今までのどんなリハビリ期間とも違いましたし、特別な時間でした。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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