スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年1月30日 (日)

「フル出場と経験で若手を引っ張った遠藤、長谷部に’MVP'を」アジア杯を終えて

 6試合全てでフル出場を果たしたチーム最年長の遠藤と、日韓戦ではけいれんを起して負傷退場した長谷部のプレーには、W杯当時よりもはるかに熟成された味が加わっていた。ザッケローニ監督も、2人の「ボランチ」のポジションについては今大会を通して、彼らへの信頼と同様「不動」であった。本田は、「個人的にはMVPはやっとさん」と称賛する。若返ったチームの伸びを優勝の要因とするなら、最年長の遠藤、キャプテンの長谷部の「VOLANTE」コンビが見事にそれを引き出したことは、若さ以上の称賛に値するだろう。おかしな言葉になるが「M」OST 「V」OLANTE 「P」LAYERSを是非2人に。

 

 長谷部は、大会直前に主将に指名され戸惑い、中澤や中村、川口ら年長者に常に気を使っていた南アW杯とは違い、伸び伸びと、自分なりのリーダーシップを発揮していたようだ。公式会見でも、リラックスしユーモアを交えて話すようになったのも、そんな気持ちの変化からかもしれない。

 韓国戦の死闘の中で見せた、二人の「視野」が深く印象に残る。

 PK戦に入ったとき、遠藤は、大会初のPKを経験するチームに対して、「思い切って自分が信じたところに蹴れば、外れたってそれでいいよ」と、手をたたいて鼓舞していた。遠藤の順番は5番目。PK職人の「思い切り蹴ればそれでいい」という言葉に本田も「落ち着いた」と振り返っている。そして、韓国が疲労から全てのPKを外し勝利が決着した瞬間、若い選手たちがおおはしゃぎしている輪を抜けて、遠藤はパク・チソンの元へ歩み寄り、抱き合って頭を優しくなでていた。試合後のミックスゾーンでは、「100試合おめでとう、頑張って、とだけ言いました」と教えてくれたが、本当は、パクが、「日韓戦の100試合目、きょうが最後の試合です」と、京都からともにプロとしての道を歩いてきた遠藤だけには告げていたのではないか、とふと考えてしまうような、胸に迫るシーンだった。

 長谷部は足をけいれんさせ負傷退場のベンチでPKを見守っていた。決着した瞬間、ベンチからも全員が選手の元へと駆け出したとき、長谷部だけは、日本のベンチ前でうなだれ、泣いていた韓国選手の輪に、足を引きずりながら歩いて行った。日本の歓喜の輪を大きく離れて、自分たちがW杯で経験したのと同じように、PKに敗れた選手に声をかけ、握手をしていた姿について、ミックスゾーンでたずねた。

 「いや、もう足が痛くて、遠くまで走れず、日本のベンチ前に近かった韓国の方へ歩くのが精一杯だっただけですよ」と笑ったが、もちろん違う。ザック監督が試合前に、「拮抗した試合では、いかに細かなケアができるかが勝負を分ける」と話していた。これは戦術的な意味での話であることは明白だが、2人がピッチに描いたシーンをスタンドから見ながら、サッカーにおいて「細かい」とは、彼らのような視野をも指しているのだと思った。サッカーに対する細かさは、チームへ、ライバルへの思いやりであり、何より、サッカーそのものへの深い敬意と愛情の表現なのかもしれない、と。若手の歓喜の輪をいつもそっと離れては、別の何かに心を向けたボランチ2人の「広く細やかな視野」は、今大会を通した優勝の要因だった。

 豪州戦の延長に入る際、ザック監督はピッチに座った選手のうち、遠藤にもっとも長く、何かを話しかけていた。それを聞く遠藤は、実に楽しそうに、肉体的にはとっくに限界を越えているであろう疲労の中でも、精神的にはまだまだ余裕があることを表すように大きく笑ってうなずいていた。大会前「3年後のW杯が待ち遠しくってたまらないんだ」と話していたMFの収穫はきっと、「サッカーが楽しくて仕方がない」という感覚を、信じられないほどの劣勢と苦しみの中で味わっていたことだと思う。

 決勝後の遠藤のコメント (後半11分の交代について)僕は、監督からの指示を(今野をアンカーに)知らなかった。あの場面では、仕掛けのできる長友をあげるのがいいと思っていたし、延長後半になれば、さらに長友のポジションが効いた。今回は、劣勢を跳ね返して勝ちきったことが大きいし、そういう勝利は実は(最近の)代表にはあまりなかった。今回、代表で戦う難しさや重みを若い選手たちが感じてくれたと思う。中国のアジア杯優勝はそれはそれでうれしかったし、今回と比べられるものではないが、最年長として、優勝経験を伝えられたとすればうれしい。

 試合後、空港へ直行し長谷部らとドイツに向った岡崎 疲れがひどく、足が前に出ない感じで重かった。ロングボールで来るかと思ったら、豪州はサイドで数的優位を作って崩しにきたので戸惑った。ただ、試合をしながらもずっと負けるとか、ネガティブなことは一度も頭に浮かばなかったし、ここまで来たら勝ちきらなければ、その前の試合で勝ったことが生きないと考えていた。(最高の形で移籍では)いい形でできることはうれしいが、課題も一杯ある。ドイツで強くなるだけです。楽しみです。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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