小倉純二会長インタビュー(3)
―FIFAの中での日本の存在感―
―W杯でベスト16に入りましたが、政治の舞台では難しい戦いが続きますね。12月には、招致に立候補をしている2022年のW杯開催地が決定し、来年1月早々にはアジアカップ(カタール)が行われ、田嶋さんが立候補されるアジア選出の理事選挙もあります。強化はザック監督に任せるとしても、日本協会の国際的な存在感が改めて問われる重要な「3連戦」ともいえる。会長は招致委員会委員長でもあります。
小倉 2022年大会は、アメリカが22年に絞ったことで、すでに立候補しているオーストラリア、カタール、韓国、日本とアジアにとっては脅威ですね。あれほどキャパシティの大きなスタジアムは、アジアではとても太刀打ちできませんから。
ただ、こうしたハードとは違う面で、今、世界中で招致活動をする中で、経済的な恩恵を受けるのが、開催国だけでも、FIFAだけでもなく、全ての加盟国への還元をテーマにした「208スマイルズ」、「ファンフェスタ」、またFIFAによる視察でも非常に高い評価を受けた「夢先生」(協会が自治体、教育委員会と連携して、サッカー、スポーツ選手に小学校の派遣授業を行うもの)といった日本の提案は、こちらの想像以上に高い評価を受けていますし、必ずしもW杯開催に限定されない手ごたえを感じている部分です。
―招致活動に限った話ではなく、FIFAの目指す方向性をある部分で示唆するものにもなる提案だということでしょうか。
小倉 そうです。W杯によって、TV放映権、マーチャンダイジングと、FIFAの利益構造ができあがっている中で、各国から6000人の子どもたちを招待し、ホームステイに協力してもらい、広島や長崎を見学するなど、サッカーの付加価値をより大きく捉え、見直そうといった招致活動は、非常に考え抜かれた、将来のサッカー、W杯の未来図として関心を集めている。こういう部分では、W杯開催にかかわらず、存在感を十分にアピールできるものに確実になるでしょう。
―欧州での記者会見など反応は?
小倉 ロンドンでBBCの記者から、2018、2022年の立候補をしている全ての国の開催提案書を、FIFA理事として全て手元に取り寄せていらっしゃるのは、あなただけだと(小倉会長)聞いているが・・・という質問を受けました。FIFAに提出された提案書はどこの国のものも膨大で、チューリッヒの本部から国際宅配便で取り寄せることができるんですが、ほかの理事さんは投票までに(12月2日)見ればいい、というゆったりとしたペースなんでしょう。私は、日本招致委員会の委員長として他国の提案を把握して戦略を立てる必要もあるし、アジアを代表するFIFA理事としても、全てに目を通し、有意義な情報や各国のコンセプトを理解しておくのは、まだまだ途上中の日本サッカー界にとっても、当然のことだと思っています。
―失礼かもしれませんが、小倉さんらしい、と言いますか、分厚い書類を全部取り寄せ、そうやって書類ひとつでもていねいに読まれてきたことが、日本を押し上げてきたパワーになったんだと思います。将来FIFA理事になりたいと思う若者がいるとして、何が必要でしょう。
小倉 健康であること、外国語が堪能なこと、知らない土地や人々との交流を楽しめる人であること。食べることが好きなのも条件ですね。
―日本サッカー界の、ある意味で命運を握る三ヶ月になります。
小倉 そうですね。もちろん国際舞台での日本サッカー界の存在感も重要なテーマですが、もちろん国内の仕事は最優先です。47都道府県、9地域の協会との連携こそ重要です。私が会長になって最も大きな仕事になるであろう、日本サッカー協会の公益法人化への準備も、2012年を目指して進めて行かねばなりません。
サッカーは公益であって、私たち職員、サッカーに携わる人々はみな、公益のために働いているんだという自覚と誇りを持って仕事に当たらねばなりません。みんながサッカーに命をかけているわけじゃないんだ、と知ることもあります。でも、会長任期の2年、私は命をかけて、精一杯、日本のサッカーに尽くしたいですね。
1938年8月14日生まれ。東京都杉並区出身。
日本サッカー協会第12代会長、アジアサッカー連盟(AFC)理事、国際サッカー連盟(FIFA)理事。
プレーヤーとしての経験が皆無でありながら、日本サッカー界の国際的な渉外活動を長年にわたり引き受け、日本サッカーの国際化に大きく貢献する。2010年6月には長年の功績が認められ、FIFA功労賞を受賞。