スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年11月 2日 (火)

小倉純二会長インタビュー(2)

―アジアでの日本のポジション―

―尖閣諸島の問題で、日中関係がギクシャクする中、サッカーのU―19世代のアジア選手権で中国の観客に日の丸がはがされる等、問題が起きました。しかし、政府が一連の問題で行ってきた対応よりもずっと早く、日本協会はすぐに中国側に質問、中国側もその日のうちに謝罪をしています。この何カ月かの政治的動向から見ればとても同じ国とは思えないような柔軟な対応を引き出せるのは、国際舞台で長く活躍されてきた小倉さんが会長に就任されたことが大きいのではないか、と感じました。

小倉 尖閣諸島の問題が起きた時点で、サッカーの国際地図の中でこうした事態を予測しなくてはなりません。先ず外務省と文科省、中国の日本大使館に、選手は未成年ですから、不測の事態に巻き込まれないように十分配慮を御願いいたします、と相談をしていましたし、大会を主管するAFC(アジアサッカー連盟)の一員として中国とも連携しなくてはいけない。あの問題が起きた際には、AFC副会長でもある中国の張吉龍氏に、ここから(東京文京区JFAハウスの会長執務室)すぐに電話をかけましたね。

―ホットラインですか。

小倉 そうです。張さんに直接、どうなっているんだろう?スタジアム、選手の警備に問題があるのか、今後はどう対応するのか、と電話で質問をしました。彼も、自分も大会組織委員会から情報を集め、すぐに対応を連絡する、と言ってくれた。公式文書での双方のやり取りも手続きとしてもちろん重要ですが、日本サッカー界として、日本の利益だけではなく足元のアジアとの共栄共存を考えてきたことで、こうした問題に、当事国だけではなく他国もすばやく、一本の電話で対応してくれる。
選手強化は時間がかかりますね。それと同じように、国際舞台で発言力や存在感を持つことも、やはり日本サッカーが長く、コツコツと怠けずに積み重ねた結果だと思います。

Ogura

―アジアの中における日本サッカーのポジションは、強化の部分では、初出場から4大会連続でのW杯出場(02年は開催国)を果たし、南アではアウェーで初のベスト16に進出しました。順調だといえますね。

小倉 同時に、アジアの中での日本の存在感も重要なものになってきたんじゃないでしょうか。私は現在、AFCの中でコンペティション(大会)委員会、ユース、フットサルを担当しています。02年にFIFA理事に就任した際、私たちが掲げたのは、アジアのポジションを高めましょう、というスローガンでしたから、それを実現しようと働いてきましたね。アジアの、サッカー途上中の国への人の交流、物の支援から、大きなテーマとしては、W杯の出場枠そのものの拡大です。何よりも、アジアの出場枠はかつては2・5枠、これが現在4・5枠になっていることを見ても、少しずつ目標に近づいている。もちろん、アジアのFIFA理事と共闘してきたことも大きい。

―サッカー協会の事務局がまだ渋谷区の岸記念体育館の3階で、こじんまり活動していた時代を思うと、日本のポジションは強化同様、激変していますね。

小倉 FIFAが、加盟する208協会全てに、協会のオフィスとトレーニングセンターを設立すると援助を始めたことが、サッカー界全体を大きく変えるきっかけでしたね。どんな国であっても、パソコンがあって、ファックスがあって、Eメールで責任者に通じる。FIFAが決定したことは、一瞬にして各国協会に配信される。こういう情報共有の中で、日本は組織力、事務能力の高さ、そして、怠けることのない勤勉さで認められてきたんだと思います。

―小倉さんが来年、FIFA理事を定年されても変わりはありませんか。日本としての悲願だったFIFA理事に小倉さんが就任されるまで、立候補しても3度落選するなど、非常に困難なこともあった。

小倉 幸三さん(田嶋・日本協会副会長)が、東アジア連盟からの推薦を頂きましたし、理事選挙(来年1月)にむけて、すでに一昨年からロビー活動も行ってきました。アジアとして改選される2枠に5人ほどが立候補する見込みですから、確かに厳しい戦いになる。今後票読みを慎重に行って選挙対策を整えます。ただ、02年の初当選とは違って、多くを積み重ねた上でバトンタッチをするので、以前よりは色々と戦略を立てやすいのではないかと思っています。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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