大東和美チェアマンインタビュー(2)
―ファンの目線に立つ―
―散歩にラジオ体操は分かりますが、スノボ・・・ですか。
大東 ええ、もう10年以上前の話ですが、娘が始めたときに一緒にやりたいと思いましてね。当時は、スノボ人口も今ほどではありませんでしたから、ゲレンデでも相当に目立っていましたよ。滑っていると、若い子たちから『何だ、あのオッサン!』と、声があがっていました。
―誰だって驚くでしょう、50代に、かっこよく滑られてしまったら。
大東 鹿島にいたときは、海もすぐ近くでしたし、知り合いにもらったロングボードと、ウエットスーツも自前でサーフィンをやりましたね。ショートよりロングは乗りやすいといっても、なかなかバランスを取るのは難しいものです。とても楽しい気分転換でした。
―恐れ入りました。Jリーグのチェアマンになられて3ヶ月、生活は変わりましたか。
大東 鹿島から出てきて、最初は生活のペースに戸惑ったんですが、だいぶ落ち着いてきましたね。午前6時に起床し、散歩をする。数年前から足腰を鍛えたお陰で今がある。お陰さまで病気知らずの薬いらず。散歩とは、きょうの健康のためにではなく、3年先、5年先の自分に向かって歩くわけです。今いる場所ではなく、常にその先を見つめて行く。これは、仕事にも通じています。
―ラグビー界の超エリートが、クラブの社長からチェアマンにまでなったことに戸惑いなどはありませんか。
大東 ラグビー出身者だから、とか、サッカー出身だからといった考え方が、サッカーにはありませんね。ラグビーの組織は、経験者で固まっていますが、Jリーグは設立当初から、スポーツ全体への貢献をテーマにしていましたし、懐(ふところ)が非常に深い。違う競技出身者がいて、有識者も加わって組織されている。鹿島に入った当初から、違和感はありませんでしたね。外部に対して、非常にオープンで分かりやすいメッセージを発信し続けてきたからでしょう。
―問題山積、とばかり言われているところ恐縮ですが、チェアマンがまず着手したいと思われるのはどんな点でしょう?
大東 やはりファン、サポーターにいかにスタジアムに足を運んでもらえるか、それと同時に新しい客層の開拓ではないかと思います。
―確かに、イレブンミリオンも、少し足踏みしていますね。チェアマンのひとつの指標は、J2で1試合平均8000人、J1は2万2000人ですね。
大東 ええ、観客分布を見ると、非常にはっきりしているのは、シニア世代と20代の若者の数が少ないということです。9月の代表戦(日産スタジアムでのパラグアイ戦)には6万5000人もの方が足を運んで下さった。しかし、全員がサッカーに詳しいとか選手を知っているわけではありません。そういう方々にこそJリーグのリピーターにもなってもらわなくてはいけない。それには、スタジアムという非日常の空間での体験であり、何よりも選手、試合で得た感動を伝えることが重要だと思います。魅力的な空間の提供と、選手たちのパフォーマンスが柱です。
―鹿島に、専務取締役から入られて、細かい視点、小さな要望にも耳を傾けられた。大きな企画やイベントで集客を考えるのも一手ですが、ファンとよく話されたそうですね。
大東 ある時、こんな話を耳にしました。足元に置いた飲み物を、ゴールの瞬間など興奮して立ち上がって倒してしまうことがある。すると、特にバッグを足元に置いているご婦人方のかばんに水がかかってしまう。
―小さいといえば小さな話ですが、ファンの立場に、というの簡単そうで実は難しいことですね。
大東 鹿島スタジアムの全座席にカップホルダーをつけたのは、それがヒントでした。シニア世代の女性は、本気で応援しようと思うと、大変なパワーを発揮してくれますし、選手を心から激励してくれる。クラブハウスや練習などでそういう方々から話を聞くのは貴重でしたね。ユニホームにつけられたエンブレムの位置がもうちょっと上なら見やすいのに、とか、ファン、サポーターの目線にはこちらが気付かないものが本当に多いですよ。