大東和美チェアマンインタビュー(1)
―大東チェアマンが立つ場所―
左鼻に通る縦長の傷は、ラグビーで負ったものだ。スポーツマンにとってよくある負傷であり、同時に、ラグビー界からサッカーに転じた初めてのリーダーの、ルーツから今に通じる「一本の筋」であるようにも見える。早大ラグビー部主将として、また監督としても優勝を果し、代表キャップ6を獲得。ラグビー界最高ともいえる華やかなキャリアを誇るが、大東は首を振って笑う。
「私は、俊足で華麗なステップを切るバックスではなく、地味なFWで、中でもさらに地味なフッカーでした。縁の下の力持ち、というところでしょうか」。
相手と対峙するFWの中にあってさらに、最前列、中央でスクラムを組むフッカーは、相手のパワーも熱も気迫も、最初に全身で受け止める。脳震盪を起こしても、肩を脱臼しても、鼻を折っても、まずは「体当たり」から始めなくてはならないポジションである。
スクラムの最前線で相手の力を受け止め、獲得したボールを後方の仲間へとつなぐ「起点」となってきたことは、06年から畑違いだったサッカーで、鹿島アントラーズに関わる(専務取締役)ことになった大東の、仕事へのマインドを象徴するかのようだ。タイトルを失い、自信を失い、ファンを失いかけたクラブの最前列で、その苦難を、体を張って受け止め、建て直しをはかるため各所にボールを配給し続けた。
鬼武健二・前チェアマンから引き継いだJリーグに問題は山積する。エキスパンション(拡大路線)の結果、現在、27都道府県に37のJリーグが存在し、将来的にはこれを40まで伸ばすことがひとつの目標とされる。企業主導型の日本のスポーツモデルを大きく変える功績はあった。しかし、Jリーグが作った地域密着型においても、昨年は、J2で赤字が10チーム、J1でも18チーム中5チームが赤字経営に苦しむなど、地域とスポーツの蜜月関係はすでに終っている。大分、東京ヴェルディの経営破綻も、決して特例ではなくなっている。
鬼武チェアマン時代に掲げられた観客動員プロジェクト「イレブンミリオン」も、目標である年間来場者1100万人には届いていない。日本協会・犬飼基昭前会長とJリーグの間で綱引きが行われた「シーズン移行制」の問題、改めて選手教育など、かつてない荒天候の中でのバトンタッチとなった。しかし大東はスクラムの最前線、その真ん中で、問題にガツンと体を当て、その痛み、パワーを知り、熱を込めた仕事を始めるのだと思う。
力強い握手で始まった1時間のインタビューの最後、「スポーツは、ラグビー、サッカーに関わらず何でも好きなんです」と、実にさり気なく、娘さんと一緒にゲレンデに出かけスノボーをやっていた話、そして、鹿島では、特注のロングボードにウエットスーツでサーフィンもしていたと披露し、一同驚いてしばしあ然。サッカーボールしか置いていないチェアマン室に、是非ともラグビーボールやロングボードも飾って頂きたい。