スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年5月21日 (金)

柳沢敦インタビュー(1)「GOOOOOOOAL!!~FWという生き方~」

生まれ変わっても、FWで

―FWの喜び 

柳沢 それはゴール。100ゴールを取ったとき、Jリーグの1点目のことを、ふと思い出しました。1ゴール目も、100ゴール目も、やっぱり同じように、こんなにうれしいものなんだな、と噛み締めた。

―それは、何点取っても変わらない?

柳沢 そうでしたね。1点で、それまで動かなかった重い足が嘘のように軽くなってしまう。それは、自分だけではなく、チーム全体がそうなる。ゴールはまるで魔法のようですね。改めてそう感じました。

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―ではピッチで嫌なことを。

柳沢 トラップミス。

―6人のFWでも初めての回答です。

柳沢 プロでやっていく上で、自分自身をよく知って、ここまでやってきたつもりです。ほかの選手のように強烈なシュートが打てるわけではないし、特別に上手いわけでもない。だからトラップをいかに正確にし、シュートを自分の体勢に持っていくか。これが、プロで生きていく上で全てでした。そこでミスをしたら、全てが終ってしまう。

―逆に、うれしいこと。

柳沢 意図が、絵になる瞬間。互いの意図を、互いが汲み取って、形にはなかったものが、パスや動きに変わって、その結果のゴールが生まれたときのそのうれしさといったら・・・言葉にできないくらい感動して、1点の喜びはまったく違った味わいになる。サッカーではよく、コミュニケーションを取れ、と言われますよね。もちろん大事なことです。でも、自分にとって本当に最高のプレーには、多分、言葉はいらない。

―FW柳沢敦とは?

柳沢 じれったいヤツ。

―笑っちゃいけませんね。

柳沢 FWらしくないFWというか、もの凄く期待しているとゴールを取れないのに、たとえば、あまり期待されていなかったのに、偉大な先輩たちに並んで100ゴールにたどりついていたり。良く言えば、いじらしい、ですか。

―FWとしての武器

柳沢 少し前までは、スピードとかタイミングと答えたと思うんですが、まぁ、そうも言っていられない歳にもなりましたしね。今はやはり、ゲームの流れの中で生きること、選手それぞれの特徴を掴んで、持ち味を最大限に活かしながら、自分もその中で生きることですね。周りとの呼吸とか、間合いとか、それを掴んでプレーをする。

―ゲン担ぎ

柳沢 全くしません。

―もし生まれ変わって、またサッカーをやるとしたら、やりたいポジション

柳沢 もう一回FW。

―MFかと。

柳沢 いや、今度は、サッカーを始めるところからFWとしてやり直してみたいですね。シュートに持って行くまでを、もっと、もっと丁寧に練習して。

―FWとしての信念は?生まれ変わっても変えませんか、やっぱり。

柳沢 ええ、次もやっぱり、頑固に行きますよ、ここは。FWにとって、ゴールだけが仕事ではない。

―では最後に、柳沢選手にとって、FWとはどういう仕事でしょう?

柳沢 難しい質問だなぁ。

―参考までに、今回の記事ですと、例えば、玉田選手は期待に応える仕事、興梠選手は天国と地獄、鄭選手は、一度やったら辞められない、麻薬のようなものだ、と表現していますね。かつてカズ(三浦知良)に話を聞いたときには、オセロ、と。

柳沢 オセロですか?

―ええ、自分の一手、つまりゴールで、白を一瞬にして黒に逆転することができる、そういう仕事だと表現していましたね。

柳沢 カズさん、さすがです。みんなの答えを聞いてしまうと余計に考え込んじゃう。

―ではインタビューの最後にまた聞きましょう。考えておいてくださいね。

柳沢 はい、そうします。


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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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