スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年4月 1日 (木)

興梠慎三インタビュー(3)「GOOOOOOOAL!!~FWという生き方~」

W杯代表に選ばれなくてもがっかりはしない、むしろ、燃えると思う

―ご自分を全くFWらしくないFWと分析していますけれど、本当に?

興梠 例えばゴール前で、もしマルキ(マルキーニョス)が空いていればパスを選ぶ。もし自分が本当にFWらしいFWなら、ミドルも打つだろうし、パスは選択しないと思うんですよ。自分が一番気にしているのは、自分のゴール数よりもマルキとの連携。マルキとギスギスするようなことをしてまで、自分を主張しゴールを取りたいとは思わない。ゴールはいつでもどこでも狙っているけれど、得点王がどうしても欲しいとは思ってはいないし、それよりも、4連覇を狙う強い鹿島の、あのFWのコンビはすごい、コンビネーションも完璧だな、と思われるほうが大きなやりがいになる。

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―ゴールはみなエリア内ですね。

興梠 一瞬のチャンスは、どんな体勢でも絶対にものにしてやろう、と思っている。イメージが沸くのはゴール前になった瞬間。でも、ミドルやロングシュートを打てない。マルキのような選手が、本当にFWらしいFWなら、自分は全くFWっぽくないFW。

―DFがやりたいんですか?現役中に?

興梠 基本、1対1が強いんですよ。パッと見た目では分からないけれど、サッカーの玄人が見たら実はすごいプレー、というのをディフェンスでやってみたい。こっちは、FWと違って絶対にうまく行くイメージや自信しか沸かないんだけどなぁ。

―生まれながらのFWというより、なっている途中でしょうか。

興梠 だと思う。第一、ゴール以前に、FWの自分にボールが来なかったんですから。

―本山も野沢もプロとして試していた。

興梠 同じ中盤でも小笠原さん(満男)は、行けよ!って感じのパスを出してくれたんですけど、とにかくあの2人は、オレがフリーでも明らかにボールを出しませんでしたからね。信頼されていなかった。

―それが最近ではパスが来るように。

興梠 試合中、オッ、パスが出るんだ、少しは信頼してもらえるようになったんだ、って受けながらうれしくなる。鹿島の中盤からはホント、もの凄いパスが出てくるんで気を抜けない、緊張感がある。

―サッカー初試合がハットトリックですか。サッカーをどう思いましたか?

興梠 ああ、簡単なスポーツだなって。

―みんながっくり来ますね。運動神経抜群なんですね。

興梠 多分、サッカーをやっていなかったらかなり有名な選手になれていたんじゃないかって!基本、挫折知らずなんです。努力を見せないんじゃなくて、努力もしてない。スパイクだって、磨かないで去年一足だけ履き潰すなんて大雑把な人間だし、ああ、そんなの面倒だって思うと、諦めも異常に早い。高校の時も、もし先生があんなに誘ってくれなかったら辞めていたし、去年ももしあれが外国選手だったり、先輩ならば・・・。

―昨年、12試合連続無得点、先発を代わられた時期ですね。大迫勇也選手は年下。

興梠 点は取れないし、スタメンは奪われる。ミスを連発して自信も失くす。何してんだよ、オレは、って、あの頃は正直、練習に出かけるのも、ピッチに立つのも本当に嫌だった。唯一、挫折っていえる経験かな。もしあの相手が外国選手や先輩選手だったら、間違いなくもういいや、サッカー辞めても、って終ってた。相手が年下だったから燃えた。年下だけには絶対に負けられない、って。

―オリヴェイラ監督は、分かっていたんでしょうね。あそこを抜け出せた理由は?

興梠 監督に、色々悩んでいるかもしれない、苦しい時期だとも思う。でもオレはお前を信用しているから絶対に使い続けるからな、と言われたら、本当にぜーんぶ完全に吹っ切れた。それと、あんなにひどい時、普通ならブーイングされておかしくないのに、サポーターがオレの応援テーマをずっと歌ってくれたこと。

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―日本代表についてはどう思いますか?岡田監督は、興梠は国際試合のメンタルが弱い、と評しましたね。

興梠 鹿島でもみんなに「オマエ、メンタルが弱いらしいじゃん」ってからかわれて、最初は何のことなのか分からなかった。自分、ワールドユースも五輪も最後に落とされていて、それが実力、と言われればそうだと思うし、岡田さんがそう言ったからといって監督に悪い感情を持つとかそういうことはない。合宿では監督と1対1で話すこともあったしね。ワールドカップに行きたいとは思うけれど、選ばれなかったとしても、それはその時の力だし、そんなにがっかりはしないんじゃないかと思う。北京五輪のときも選ばれなかった後、鹿島でスタメンに入ってアントラーズの選手としての自分が始まった。だからむしろ落ちて、自分がどうなるか、それはそれで楽しみなとこもある。

―最後に、もし願いが叶うとしたら?

興梠 先ずはアントラーズで30歳まで先発で出続けること。

―御願いする望みですか?

興梠 うん、難しいと思う。競争の激しいクラブだから。

―もうひとつ、サッカーとは関係ないものがあるとすれば?

興梠 去年始めたゴルフで70を切る。満男さん、拓さんはうまいですよ。サッカーと同じでMFはめちゃくちゃ器用でね。オレはまだまだ言えないようなスコア。ゴルフやって改めて分かったのは自分の性格。やっぱり、どこまで行ってもチャレンジャーで、何か狙ってるんですよね、少ないチャンスのほうを。

興梠慎三(こうろき・しんぞう)

1986年7月31日生まれ 宮崎県宮崎市出身
鵬翔高校(宮崎県)卒業後、2005年に鹿島アントラーズに入団。現在に至る。ポジションはFW。Jリーグ通算26得点。国際Aマッチ通算0得点。175センチ、67キロ。


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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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