スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年4月19日 (月)

大久保嘉人インタビュー(3)「GOOOOOOOAL!!~FWという生き方~」

ウラをかいて、裏を取る面白さ、オフサイドラインでのギリギリの攻防戦

―好きなゴールは、激しい打ち合いになった03年の浦和戦でのゴールですか。

Goal_okubo

大久保 0―3から6―4のホントに大味な乱打戦だった。中盤から出たスルーをもらって、背中に坪井(慶介)さんを背負った瞬間、受けた左方向ではなくてターンして中の右に体勢を変えた。坪井さんは遅れて追いついてきたんだけれど、それを左手でけん制しながらスピードに乗って右足でシュート。相手のウラをかいた意外性とか、ユニークなステップ、スピード、強さ、ボディバランス、全てが詰まった好きなゴールのひとつだね。

―先ほど、相手が嫌がることをするようにしている、と話していましたが、ウラをかく、というのもそのひとつですね。

大久保 そうそう。一言で裏を走る、といっても、みんなタイプは違うんでね。例えば、岡崎はスピードの切り替えでDFを振り切るのが上手いタイプ、それからタイミングで振り切るタイプもいるし、自分のようにステップが命、というFWもいる。体が小さいから、とにかく相手とは違う、相手がこんな動きをされたら嫌だろうな、と思う動きをするうち、ステップの面白さが分かったね。だからFWを見るときには、この選手はどんな風にして、DFのウラをかいて、裏を取るのかっていうのをいつも見ている。

―ウラをかいてから裏を走るわけですね。裏の取り方にFWの個性や信念の一部は見えると。この選手は、凄いと思われたのは?

大久保 森島さん(寛晃・セレッソ大阪)ですかね。今でも敵わんと思う。森島さん、足が凄く速いってわけでもなくて何かドタバタ走るでしょう。スピードがあるとか、華麗なステップを切るとか、そういうんじゃないんだけど何でやろって。ディフェンスから姿を消して、ぱっと出てくる。あれは真似できない。

―見ているだけでは分からないですが、DFラインとの攻防は熾烈で。

大久保 ゴールはもちろんFWの仕事だけれど、自分はもう少しその前のやり取りも楽しんでいるところがある。ちょっとした体重移動とか、消える動きとか、オフサイドラインの攻防はたまらない。

―その結果、抜け出したとしてもボールが来ないことはある。

大久保 10回のうち、パスが来るのは多分1回。たった1回のチャンスまで我慢できなきゃいけないと思う。たった1回のために、9回を走ることを無駄とは思わない。苦しまないと喜べない。そういう仕事。

―大久保選手はMFもやっていますね。もともとFWでしたか。

大久保 昔のあだ名は、「すっぽんマークのオオクボ」。小学校の頃は、とにかくしつこくしつこくマークしろ、って先生に言われていてトイレも付いていく勢いだった。食いついたら離さない、ってことで、ついたあだ名は、すっぽん。小学校3年のとき、たまたま前に行くことになってそこでゴールを決めて、そこからずっと前。性格的には向いていると思う。

―マジョルカの後、短いけれどドイツにもいた。あまりにも早く帰ってきたために批判もありました。

大久保 批判は批判でその通り。でも、行ってみなければ分からなかったことはある。

フォルクスブルグでは紅白戦が120分続いて、最後は足がつって動けなくなる選手が続出。スペインでも練習がきついけれど、国見もびっくり、というくらいトレーニングが厳しかった。あれも行って自分の体で分かったことだった。

―ジーコの代表に選ばれてから7年です。当時、得点できなかった大久保選手をジーコは使い続けた。今思うことはありますか。

大久保 点取れなくて、それでもあれだけ呼んで使い続けてくれた。今になると、その意味がよく分かって、ジーコに感謝したいって思っている。若い選手が代表に呼ばれてすぐに落とされたら、使われなかったら、ただ自信を失ってしまうだろうと思う。自分は貢献できなかったけれど、あの代表は、そういう若手を我慢して使ってくれる強いところがあったし、練習からしてもの凄かった。今、自分たちの代表にあれだけの迫力があるか、といえば違うとも思う。練習中の緊張感とか、個性とか、何か突き刺すようなもんがあって、それは今、味わえないね。結局勝てなかったけれど、雰囲気は海外のクラブで味わっていた空気と似ていた。

―W杯のことを具体的には?

大久保 頭にはふっと、自分がゴールするシーンが思い浮かんだりする。左からウラをとってゴール。甘くないのはわかっているけれどね。4年前のドイツでの試合は、長崎の居酒屋で客に混じって見てたと思うね、代表の試合を。多分、これが最後のチャレンジになると思うし、何が何でも行きたい。昨年の遠征(ポートエリザベス、南アとの親善試合)では、とてもいいイメージを南アに抱くことができたんだ。

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―環境面などで?

大久保 泊まっていたホテルの前は海(インド洋)だった。毎日、練習以外の時間は皆でボーっときれいな海を眺めて・・・。南アっていうから行く前は、キリンか象を見られるのかなんて思っていたのに、実際には海を眺めていたらイルカやクジラを見られたんで、マジって!と、もう子どもみたいにはしゃいじゃってね。毎朝、松井と闘莉王と3人で海岸を散歩して、崖をよじ登って、釣りをしていた人と話し込んだりしてね。何が釣れましたか?って聞くと、あぁきょうは一匹もないんだよなんて一緒に笑ってね。楽しかった。みんな、あの遠征で何かいい雰囲気、手ごたえを感じていると思う。

大久保嘉人(おおくぼ・よしと)

1982年6月9日生まれ 福岡県京都郡出身
国見高校(長崎県)3年次には高校選手権で優勝し、卒業後、2001年にセレッソ大阪に入団。スペイン、ドイツと2度の海外移籍を経て、2009年6月にヴィッセル神戸に移籍。現在に至る。ポジションはFW。Jリーグ通算72得点。国際Aマッチ通算5得点。170センチ、73キロ。


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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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