スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年4月 9日 (金)

岡崎慎司インタビュー(2)「GOOOOOOOAL!!~FWという生き方~」

代名詞だが、全てではないダイビングヘッド

リンボーダンスのバーのように高さを下げながら「どこまで飛び込めるか」の実地調査を。

―この辺だったら?

胸のあたりに、手の平を並べる。

―あ、全く。

―では腰になれば少しは怖くなりますか?

―まだまだですねえ。

岡崎はニヤリと笑う。

―さすがに、ひざ下まで来たら、相手の足だけではなく、味方がシュートしようと、あちこちに足があるのが視野に入りますよね。

―大丈夫です。小学校から高校まで、ゴロにも飛び込め、基本、ボレーシュート禁止、くらいの勢いでしたから、怖いなんて感じない。それに、もともと泥まみれになるのが大好きなんです。雨の日に練習なんていうと、もううれしくって、それこそ飛び込みまくるタイプ。

泥臭いサッカー選手、ではなくて、本当の泥まみれ。洗濯物はさぞ大変だっただろうな、などと、才能の開花とか、特別な練習よりも、部活に熱中する高校生の、当たり前の日常を思い浮かべてしまう。まるで「近所のサッカー小僧」が話しているような素朴さや、フツウの感覚を漂わせながら、よく考えれば、昨年、代表Aマッチで15得点(16試合)をあげ、昨年の世界得点王と認定された(国際サッカー歴史統計連盟による)、すでに日本代表のエースストライカーである。両者の顔はなかなか一致しない。だから面白い。

一昨年代表にデビューしたばかりのFWは当初、知名度も実績もなければ、国際舞台で活躍する期待を抱かせるようなオーラは放っていなかった。何より、ダイビングヘッドに代表される、泥臭いプレースタイルのイメージがどうしても先行する。一方で、岡崎は決して「泥臭い」だけのFWではない。

五輪でも活躍した陸上短距離の杉本龍勇氏に指導を受け、競り合いに勝てるランニングフォーム、外国選手にも負けない強い走り、スピードを落とさずにボールを扱うバランスなど、泥臭さとは対極の、実に洗練された技術を持っている。陸上競技の専門家たちのイチオシはかつて、体幹を自在に扱い外国選手にも勝てる走力を示した中田英寿だったが、今は岡崎である。彼自身がそれを意識しようとしまいと、いかに繊細で、洗練された走りをしているか、ディテールが分かるからだ。

「ダイビングヘッド」の代名詞にうっかりしていると、DFは想定外のゴールを浴びることになる。脅威を抱かせるタイプではないのに、驚かされる。09年1月のイエメン戦から代表で15ゴールを奪い、Jでも年間14点を奪取した一因だ。

Goal_okazaki

インタビュー中、自分を分析して欲しい、と頼むと、迷うことなく「進化するFW」と答えたのも、ダイビングヘッドは「代名詞」ではあるが、それだけではない、それでは国際舞台で戦えないとの現実認識と強い意志の表れだろう。ダイビングヘッドの先に、ロングもミドルも、ドリブルも多用してゴールするスタイルを増やす、と力を込める。ベストゴールではなく「納得できたゴール」としてあげたのはわずか1本。昨年、日本代表がW杯出場を決めたウズベキスタン戦のものだった。中村憲剛からのボールをトップスピードに乗ったまま右足でシュートに持ち込む。DFラインを突破して、さらにそのリバウンドを頭で押し込んだ。岡崎が飛び込んで体当たりするのは、勝利のゴールであり、あすへの扉なのかもしれない。

大雨の取材日、痛めた歯の治療に時間がかかったため、取材時間がわずかに遅れた。遅れたなんて言えないほどなのに、「お待たせして、すみませんでした!」と声がした。

着るものもとりあえずやってきた、まるでサッカー小僧が、泥んこで職員室に駆け込んできたような空気に振り返った。


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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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