スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2010年4月30日 (金)

鄭大世インタビュー(1)「GOOOOOOOAL!!~FWという生き方~」

モンブランとゴールの甘い関係

―FWの喜び

 知名度。DFなら何試合やっても覚えてもらえないかもしれない名前でも、FWならたった1本のゴールで有名になれる。

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―ピッチで嫌なこと

 審判の目が届かないところでされるファール。

―逆にうれしいこと

 決勝ゴール。

―FW鄭大世

 Jリーグの中で一番へたくそ

―そうですか?

 間違いない。けれども負けないものがある。それだけでやっているともいえる。

―では武器

 闘争心。本当に何をやってもへたくそだから、サッカーで生きて行くにはこれしかありません。

―好きな、或いは憧れの選手

 バッジオ、ロマーリオ、デルピエロ、ロナウド、クライファート、アドリアーノ、ドログバ

―脈絡が・・・前のほうはどちらかといえば、ファンタジスタ系、後ろはフィジカルで圧倒的に強いFWですよね。

 そうなんです。最初のころは、バッジオやデルピエロと、みんなテクニックのレベルが高い選手が憧れだったんですけれど、だんだん、あれ?、自分にはそんな技術がないじゃないか、どう見てもあんな素晴らしいテクニックの選手になれっこないよ、と現実的に能力の限界を感じて認識したのがロナウドのあたりですね、ここが転機です。うまいけれど、力もある万能型で、その後、フィジカルに強い選手に変わって、今やドログバ。

―ピッチのモットーは?

 力ずくで何とかする。

―では、理想とするゴールは。

 体勢が悪い中、2、3人のマークに体をあてて振り向きざまにシュート、これがキーパーの手にあたって入るゴール。または相手DFを背中に敷いて、それを体で倒して前を向いて冷静にシュート、これも理想。

―こだわり

 相手の一番強いDFと戦って勝つこと。センターバック2人のうちどちらかが絶対に強い。強いと分かったら、そのDFと勝負して勝つ。本当はマークの弱いほうとやれば点が入る確率は高くなるかもしれないけれど、そこで逃げたら何にも手に入らない。誰にも分からないけれど、絶対に譲らない自分のこだわり。

―モットー

 大きなことをする。例えばウエイトトレーニングでも、小さな筋肉を鍛えるためのものより、ガーっと大きなベンチプレスを持ち上げる。小さいことより、大きなことをやる。でもこれが欠点。

―ではご自分の性格

 自由奔放、気まぐれ。

―げん担ぎはされますか?

 長いですよぉ。先ずは、自分が出る試合の録画をセットする。

―それはげん担ぎ?

 そうです。ここから始まります。ルーティンでひとつの流れと思って下さい。

―はい。では次は?

 セットを終えたら、部屋をきれいに掃除する。これはかなりきれいに。清めるんですね。そして次は、邪気を払うとされる水晶玉を水できれいに洗います。こうすることで、邪気や嫌な空気の流れを変えてくれるんだそうです。

―儀式。

 それからスタジアムに着いて軽食があるんですが、必ずモンブランを食べる。

―栗のモンブラン?

 そうです。小さい頃から大好きで、スタジアムに着いたらまずモンブランをキープ。これがおいしい。

―モンブランはイメージとはちょっと…もしかするとモンブランの次も?

 ピッチに出て並んでから、大きく三回深呼吸をする。吸うときは、雄大な大地の息使い、大気の流れを思いきり吸い込むように、吐くときは、自分の中にある邪気や緊張、不安を腹の底から思い切り出して、これを三回繰り返す。そしてホイッスルがなるまで、自分は絶対誰にも負けない、やれる、やれる、とずっとつぶやくんです。もし試合で悪ければ、スパイクとレガースは交換、調子が悪いときのものは二度と身に付けません。

―もし生まれ変わったらやってみたいのは

 フォワード。ゴールキーパーもやってみたい。ファンデルサールが好きです。

―FWとは、どんな仕事でしょう

 麻薬のようなもの。多分止められない。


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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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